うちの息子は親が言うのもなんだが、とても“良い子”だ。
テストでは満点をとってくるし、正義感が強く、嘘もつかない。
私の言うことは素直に聞くし、家の手伝いもよくやる。言われなくても勉強をするし、部屋の片付けも自らする。
おまけに、私と同じ色素の薄い瞳や髪と妻によく似ている整った顔立ちは、「まるでお人形みたいに可愛い」と、近所の人からも評判だ。性格だって思いやりがあって優しい。
絵に描いたように出来た子で、少しだけ手先が不器用なところを除けば完璧だ。
だけど、不正を絶対に許さない正義感や清廉潔白過ぎるところはいくぶんか子どもらしくなく、おそらく同年代の子どもたちから敬遠されがちなのではないかと、心配だった。
綺麗な濁り気のない、純水のような心。
純度が高すぎる水は時にはまわりにとって毒になるものだ。自分に少しでも穢れがあることを知っている人間は、綺麗なものに憧れながら嫉妬する。
どこまでも綺麗に育ったあの子の心をこれから先も守ってやりたい。
しかしながら、四六時中一緒にいるわけではないし、いつまでもそばにいられるとは限らない。
私は、綺麗なだけでは生きていけないのが現実だと職業柄嫌というほど知っていた。
あの子が私と同じ職業を目指すというのなら、なおさら、人の心の中には闇や影も存在するのだといつか必ず教えてやらなくてはいけない。
なるべく出来る限り、あの子が傷つかない方法で。
妻は今日は婦人会の旅行で家にはいない。
あの子は一人でも大丈夫だと、私を気遣い笑っていたが、まだ小さなあの子を、夜一人で留守番させるわけにはいかないと、今日は早く帰宅する予定だった。
よっぽどその気迫が伝わったらしく、周りの人間も、私が定時と同時に事務所を出ることに何も言わなかった。
事務所から家までは結構な時間がかかる。
都市部から少し外れた閑静な住宅街に、そこに永遠に住むつもりで家を買ったのだ。
あの子にとっても、新しい環境は合っているらしく、最近では友達を家に招いて宿題をやっているらしい。
直接顔を合わすことはないものの、私はその友達とやらにとても感謝していた。
嬉しそうに友達の話をするあの子は、ここに引っ越してくるまで見られなかったのだから。
日が長いおかげで、時間のわりにあたりはまだ薄暗い程度だ。
こんなに早く帰宅するのは久々で、家に帰ったら二人で外食にしようか、久々に一緒にお風呂に入ろうか、など普段できないことを色々と考える。
考えれば考えるほど足早になり、気がついたら予定よりも30分も早く家の前に着いていた。
チャイムを鳴らそうと思って、ふと、友達と勉強をすると言っていたことを思い出した。
妻が言うには、例の友達は結構遅くまで家におり、時々夕飯も一緒に食べてから帰るらしい。
今日は一体どうするのだろうか、もしも向こうの親御さんさえよければ、あの子と仲良くしてもらっている友達の子も連れて食事に行こうかなんてことも考えた。
勉強をしているなら邪魔をしてはいけないと、自ら鍵をあけ、玄関に入る。
あの子の物ではない、子供用の小さな靴が玄関に並んでおり、まだ帰宅してはいないのだと知る。
向かい合って勉強するには子供部屋は適切ではなく、おそらくリビングだろうと、扉を開いた瞬間、呻くような声が聞こえた。
「っあ、は…あ!あっ、ぁん」
断続的に上がる妖しさを含んだ甲高い嬌声は、聞きなれないが確かに息子のものだった。
動けず、呆然と立ち尽くした。
目の前では、あの子が、怜侍が、ギザギザ頭の少年に後ろから突き上げられて、体を揺さぶられている。
こちらに気づいていないのか、彼らは荒い息遣いで、頂点に登りつめようとしていた。
少年とは思えないいやらしい、感じ入った表情の怜侍。
大切に、大切にしてきたものを穢された気がした。
美しく透明な水に、余計な色を落とされた気がした。
怒りでサっと頭が真っ白になり、気がつくと、壁を右手で強く殴って怒鳴りつけていた。
「やめろ!!!!!」
ドオォンと、大きな音をたて壁紙を突き破ってしまい、私の手を傷つけたが、今は目の前の二人の行為をやめさせることができればどうでもよかった。
思った通り、さすがに音と声にびっくりとしたように、容赦なく快楽を覚えた猿のように腰をふるっていたギザギザ頭の少年がこちらをぎょっとしたように見た。
怜侍がはというと、反応は鈍く緩慢だったが、こちらに気がついて快楽に染まっていた赤い顔をサッと青ざめさせて歪めた。
「おと…うさ…」
「御剣の、お父さん。ぼく…」
「帰れ…!」
戸惑ったまま、離れようとしない様子に焦れて、私は怜侍に張り付いたままの少年を力づくで引き離した。
「帰ってくれ!」
少年の体が強い力で剥がされ、まだ繋がっていたらしいそこが濡れた光をおび、怜侍の体内からぬるりと引き出された。
「っあ!ん」
突然引き抜かれた感覚すら、快感なのか怜侍はいやらしく声をあげて肩を震わせた。
それがさらに私の怒りを煽る。
行為の途中で強制的に中断させられ、足もとの覚束ないギザギザ頭の少年をなかば無理やりズボンを押しつけ外へ出すと、中途半端に熱をためて震える怜侍が小さく小刻みに震えていた。
「ごめ…、ごめんなさ、い…おとう、さん。ごめん…なさい」
涙を浮かべて怯えたように謝り続ける姿は少し可哀相な気もした。このように私が怒鳴りつける姿なんて怜侍は見たことがなかっただろう。
しかし、私の怒りは収まらなかった。
「あ、ぁう…」
最後まですることができなかったせいで、持て余している熱に内股をこすりながら、謝る姿はまるでいやらしい女が誘うように妖艶だった。
その気はないのだろうが、清廉潔白な可愛らしい怜侍の姿から、まるでかけ離れている。
「怜侍…、悪いことをした子はお仕置きだ」
そう言って、うつ伏せで崩れている怜侍の体を引き上げて、尻を突き出す形で膝の上に乗せた。
今まで怒られたことがなかったせいで怯えているのか、本当に悪いことをしてしまったと後悔しているのか、泣きながら謝る怜侍の白い尻に手を当てた。
「悪い子はこうだ」
パァンと、手のひらで弾くように尻を打つ。
今まで叱る必要がなかった“良い子”の怜侍もそうする必要がなかった私もそんなことはしたことがなかったが、これが罰なのだと怜侍は自然と受け入れているようだった。
「っはぅ…!あっ、あぅ…」
パァン、パァンと、打たれる衝撃が中途半端なままの熱を刺激するようで、表面上の痛みとは別に、怜侍は感じ入ったように喘ぐ。
怯えて萎えていた怜侍のそこは簡単に熱を取り戻し、小さいながらぬるぬると透明な液体を零していた。
知らないうちに精通していたことも、知らないうちにこんなに色をつけられてしまったことも、私にとってはすべて衝撃的ですぐには受け入れがたいことだった。
尻を叩くと、怜侍の後ろからとろっと白濁液が垂れ、あの少年によってすでに私の怜侍は汚されてしまったのだと知った。
謝る怜侍を可哀相だと思いながらも今は、さきほどのギザギザ頭の少年の痕跡を消すことしか考えられなかった。
まだ間に合うというように、指を突っ込み、中に吐き出された液体をかきだす。
「ぅあ…!いや…!いや…あぁ、やめてぇ…あっ、ごめ…なさいっ」
無遠慮に大人の指で体内を荒らされる、それすら怜侍は快感に感じているようだった。
そして、快感を感じることがいけないことだというように、ひたすら謝るのである。
すでに体内に残されたあの少年の痕跡はすべてかきだしたが、私は指を挿出することをやめなかった。腫れあがり震える怜侍の小さなそれを軽く握りこむ。
「あっ、あっ、おと…さっ…っんぁああ!」
私を呼びながら、私の手の中で達し、怜侍はそのままくたりと気絶してしまった。
手に吐き出された怜侍の体液に、私はどうしようもなく体が震えた。
これが怒りなのかすらもうよく分からず、行き場のない感情に戸惑う。
これからさき、何かが変わってしまう気がして、知らず涙があふれたのだった。