=SIDE:M=
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
僕は、生きてきた中で想像したこともなかった事態に遭遇している。
「ねえ、御剣。今度は二人で気持ちよくなろうよ」
ぐったりと力の入らない僕の体の上に、無邪気に笑う成歩堂が覆いかぶさってきて、抗うようにその体を押したが、びくともしなかった。
今頃本当なら僕は、お母さんが作ってくれた冷えたカルピスを自分の分と、成歩堂の分をグラスに用意して、それから成歩堂と向かい合って宿題を片付けているはずだった。
そうだ、成歩堂はすぐ喉が乾くって言うから麦茶も別に用意して。
完全に現実逃避をしようとしている僕の足に辛うじて引っ掛かっていた、下着を引き抜くと、成歩堂は自らも下着ごとパンツを脱ぎ去った。
下半身だけ露出して、二人で折り重なるようにフローリングの床に転げている様はきっと、傍からみるとシュールな光景だろう。
どこか他人事のように、そう思った。
そうでもないと、心の中の何かが壊れてしまいそうだった。
成歩堂が何をしようとしているかなんて、僕に分かるはずもなく、ただ、まだ整いきらない息を荒く吐きだすだけだった。
信じられないことに僕の体はいまだ熱く、先ほどまで成歩堂に銜えられていたせいで唾液にまみれ、ぬらぬらと妖しく照っている僕のそれがジンジンと痛い。
同じようにもどかしい熱を抱えているらしい成歩堂が再び覗き込んでくる。
いつもの彼の子犬のような目は、見たこともないほど強く爛々としていて、言いようもない恐ろしさに息を呑んだ。
「御剣、ぼくなんだか痛いよ…。すごく熱いんだ、ねえ分かる?」
成歩堂が投げ出していた僕の手をそっと掴み、自分のそれへ導く。
無理やり初めて他人のそれに触れさせられて、思わず嫌悪感に僕は声を上げていた。
「や、いやだ…!」
すると、一瞬傷ついたように顔を歪めた成歩堂は、僕の顔をさらに覗き込んできた。
「どうして?ぼくのこと御剣は嫌い?ぼくは御剣のこと大好きだよ。だから気持ちよくしてあげたい。御剣はぼくのこと気持よくしてくれないの?」
穏やかだった口調は一変し、はやしたてるように成歩堂が言う。
懇願されるように黒い目で見つめられると、僕はどうしていいか分からなくなるのだ。
「ぼくたち、友達だよね?御剣はぼくのこと友達じゃないって思ってるの?ぼくは、ぼくは…」
嫌いなわけがない。僕の友達。家に呼んだのだって彼が初めてなのに。
だけど、成歩堂が求めていることと僕が望んでいる友達のあり方は、完全に食い違っている。
それだけは、僕にもはっきりとわかった。
「き、君は…矢張とも、こんなことをするっていうのか?」
「矢張?しないよ!ぼくがこんなことしたいのは君だけだよ!」
「…っぅあ、痛い!」
「あ、ごめん!ごめんね、御剣」
僕の手を掴んでいた彼の手に反射的に強い力がこめられ、思わず悲鳴が漏れる。
慌てて謝る成歩堂の姿は学校であう彼と全く変わらないのに。
昨日一緒に勉強した時と、全く変わらないのに。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
「ごめんね、痛かった?ごめん…」
「…も、ういいから…。どいてくれないか」
少し怒ったようにそう言うと、成歩堂はしきりに謝った。
そこにきて僕はようやく自分が巻き込まれたこの理不尽な状況に怒りがわく。
強気になれば、なんだかんだ人に優しい彼は、きっといつものように謝りながらどいてくれるだろうと思った。
=SIDE:N=
「…も、ういいから…。どいてくれないか」
ぼくが反射的に強く握ってしまった御剣の手首には、すっかりとぼくの手の痕が赤く残ってしまっていた。
御剣の白い肌に浮かぶ、ぼくの手形。
なんとなく怒っている様子の御剣に謝りながらぼくは、その手形がまるで自分の所有の証のようで心を躍らせた。
でも、決して御剣に酷いことをしたいわけじゃない。
ぼくはただ、気持ちよくしてあげたいだけ。今度はぼくも一緒に。
「ごめんね、御剣に痛いことしちゃったし、今度はもっと気持ちよくしてあげる」
ぼくの言葉に驚いたように、目を見開いた御剣。
そんな表情もたまらなく可愛い。
いつもの大人っぽい顔つきが驚くとこんなに幼い顔になるんだな、なんて思いながらぼくは、再び彼のそれを掴み口に銜えた。
「いや…っう!はな…せっ!」
再びそうされると思っていなかったのか、御剣の体が跳ねる。
数回、啄ばむようにして舐めまわすと先程とは違い、御剣のそれはちょっと硬くなりひとりでにたちあがった。
「ん、すごい。見て御剣のすごいよ。可愛いなぁ。ここだけ生きてるみたい」
「うぅっ、ん、見るな…」
ふにゃっと力が抜けたように背中からフローリングの床に倒れてしまった御剣の手を今度こそは優しく掴み、ぼくのものを握らせた。
「ぼくの、熱いでしょ?御剣の手、冷たくて気持ちがいいよ…ぼくの手はどう?」
ぼくは冷たくてすべすべしている御剣の手を上から握りこんだ。
すると、ちょっと力を入れただけで、ぼくの背筋に駆け抜けるような快感が走る。
「…っあ!ん」
突然、ビクっとしたぼくの反応に驚いたように、目線をぼくに向けた御剣。
でも、今度の驚いた顔はどこかトロンとして眠たそうだ。
「信じられない…こんなに気持ちいいなんて…ぼく」
御剣の手が触れているだけで、ぼくのそれは熱くて破裂しそうに痛くて、でも信じられないくらいに気持ちがよかった。
「御剣…っ…」
戸惑う御剣をよそに、ぼくは御剣の手の上から握り込み、ぼくのそれを御剣の手ごと強引に上下にこすった。
「う、ぁ!」
おしっこが漏れそうだと思った瞬間、ぼくのそこからも“セーエキ”が飛び出した。
量は少なかったけれど、ぽたぽたと零れたそれは御剣の白い手に絡みつく。
はじめての体験に、ぼくは恍惚としてしばらく、彼の手を握ったままへたり込んで息を整える。
自らの手に光る白濁とした液体を呆然と見つめる御剣をよそに、ぼくは例の本を開いた。
以前から、そこを握ったりこすったりすると気持ちいいってことは知っていた。
だから、ときどき、誰もいないところで触ってみたりしたことはあった。
でも、こんなに気持ち良くはなかった。きっと、これが御剣の手だからなんだ。
そう思うと、ぼくは益々彼と一緒に気持ち良くなりたかった。
本で、男の人と女の人が一緒に気持ち良さそうにしているシーンはいくつかあったはずだ。
熱心に本を読むぼくをうかがうようにしていた御剣が起き上がろうとしているのを見て、肩を押さえて再び転がす。
抵抗はあったけど、まだ完全に力が入らないらしく、微々たるものだった。
「だめだよ、御剣じっとしてて」
「お願い…もう…」
「大丈夫だよ、ほらこれがいいと思うんだ、ぼく」
=SIDE:M=
喜々として成歩堂が指さしたのは本の中で女の人がよつんばになってお尻を高く上げて、その後ろから男の人が抱え込んでいるシーンだった。
まさか、これを僕たちでしようというのだろうか。
そんなことは、まっぴらだ。
先ほどからジンジンと痛むそれや、先ほど味わった初めての快感を思い出すと体が震えた。
しかし、それが恐れからなのか、期待からなのか僕にはわからなくなっていた。
「これってどうなってるんだろう、えーと…」
「え、ちょ…」
成歩堂は自分で勝手に解析しながら、仰向けに倒れていた僕の体をぐるりと無理やりうつ伏せにさせて、ぼくの腰を抱えた。
急に先ほどみたシーンが脳裏をよぎり、恐怖した。
「…いやだ!やめて!…怖いよ!」
「大丈夫だよ、きっと。だって本の中の二人はとても気持ちよさそうだもん」
どこにそんな根拠があるのか、どこからその自信がくるのか、成歩堂はやけにはっきりと断言しながら、抱え込んだ僕の腰を引っ張り上げるようにして持ちあげた。
カタカタと震える腕に力が入らず、僕は自分の体重を支えきれず自然にお尻だけあげる姿勢になってしまう。
なんて屈辱的で恥ずかしい格好なんだろう。
しかし、それだけでは終わらなかった。信じられないことに、成歩堂が、僕の体の一番奥まった場所に触れてきたのだ。
「ひっ…ゃ…」
「御剣ってどこもかしこも可愛いんだね。きれいなピンク色。やっぱり御剣は特別なのかな」
嬉しそうに、成歩堂が彼自身の指をそこへ潜り込ませようとする。
「う…ああっ痛い…!痛い…!」
突然、今まで感じたことのない痛みが体中を駆け巡った。
生理的な涙がこぼれ、成歩堂が再び慌てている。
ごめんね、とまた謝っているようだったが、今の僕にはそれどころではなかった。
「うぅ…く…おね、がい…痛い、抜いっ…て」
ガクガクと腕と膝が震える。
味わったことのない圧迫感に脂汗がじっとり額に浮かび、僕は浅い息をはっはと吐いた。
「どうしてだろう、ごめんねちょっと我慢してね。本の中ではすごく気持ちよさそうだし簡単そうなのに…」
成歩堂は僕の体に指を突っ込んだまま片手で本を開いて見ている。
「穴はここしかないし…ここだと思うんだけど…」
結局しばらく本を読んで成歩堂は結論に達したようだった。
いったいどんな結論になったのか、知る術もなく、僕は途方にくれる。
「そうか…ここを…濡らさなきゃいけないんだ…」
ポツリと独り言のように成歩堂が呟いたが、はっきりとは聞き取れない。
「え…?」
何か語りかけられたのだと思い、僕が反応した瞬間、圧迫感に苦しむそこへ、熱くぬめった感触が襲った。
=SIDE:N=
御剣のそこは、柔らかくて、他の部分と同じように触り心地がよかったけれど、乾いていてとても狭かった。
本の中では、ジュースでも溢れているかのように水っぽいのに。
そこでぼくは、彼のそこを濡らさなくてはいけないのだと気がついた。
大きな発見だ。でも、先ほど御剣が出してくれたカルピスは全部飲んでしまったし、見渡す限り適当な水分は見当たらない。
さきほど御剣のあそこから飛び出た“セーエキ”も、ぼくの体から出たものも、時間が経ったせいですっかり乾いてしまっている。
あとは、もうぼくの唾液しかなかった。
「ひっ…」
口に溜まった唾液をたらりと、そこへ垂らすと、ひくりと御剣の桃のような白いすべすべのお尻が反応する。
指を動かす度に反応する姿がとても可愛い。
ぼくは嬉しくなって、垂らした唾液を塗りつけるようにして再び指を挿れてみたが、先ほどよりすべりは良いものの、御剣は相変わらず苦しそうに息を吐いていた。
もっとやわらかいもので優しく濡らしてあげないといけないのかな。
ぼくは今度は直接そこを舌で舐め上げた。
「っぁあ…く!」
可愛い声を上げた御剣が嫌々するように首を振っている。
誰かのそんなところを舐めるなんて考えたこともなかったけど、御剣の体の一番奥をぼくが舐めていると考えるだけで、体が暴走しそうに熱くなるのを感じた。
ぼくは、腰を上げたうつ伏せの体勢で必死に両手で自分の口を塞いで声を抑えている御剣に夢中になった。
可愛い、可愛い、可愛い。
後ろから見ても分かるくらい、御剣は耳まで真っ赤で、白い肌もピンク色に染まっている。
ぼくがそこを丹念に舐めるうちに、苦しそうな御剣の息にだんだんとさきほどのように、甲高い声で快楽を訴えるような短い嬌声が混じるようになっていた。
=SIDE:M=
「くっ…はぅ…んん」
ひたすら信じられない部分を舐め続ける成歩堂の行為に、僕は完全に翻弄されていた。
ただ、みっともなく大きな声を出さないよう我慢するのが精一杯だった。
ぬるりと熱く湿った成歩堂の舌が彼の指と共にそこを出入りする。
「は…ふ。ねぇ、御剣、気持ちいい?」
気持、ち、いい…
声に出して言ったのか、心の隅でそう思ったのか、自分でももうわからない。
口から出るのは意味を成さない喘ぎだけ。
気持ちいい。でも怖い、こんなことをしてはいけないと、心では分かっているのに。
強制的かつ一方的に与えられる激しい快楽に、抵抗らしい抵抗もできず、僕の体はただ、流されるまま揺れた。
「んっ…は、あ、あ…!」
そのうち膝がわらうように、支えられなくなり、ベタリと重力の導くまま体が床に崩れてしまった。
じくじくと下腹部が熱くて、ジンジンと前の部分が痛い。
「ひ…く、怖い…痛…いよぉ…」
もうどうしていいのか、わからない。
持て余すほどの熱に、僕の目からポロポロと涙が溢れた。
=SIDE:N=
ポロポロと涙を流す御剣を目のあたりにしてぼくは、言いようのない興奮を感じていた。
御剣を泣かすやつは許さない、なんてそう思っているのに。
その涙を流させているのが自分だと思うと、どうしようもなく、愛しい。
ずっと舐めていたせいか、御剣の後ろは柔らかく、指は2、3本は入りそうだった。
怖いと泣く御剣をぼくは抱きしめた。
本当は、彼の顔が見たかったけど、どうすればいいのか今のぼくにはわからない。
とにかく、本の中のように、ぺったりと力なく転げている御剣の腰を持ち上げ、ぼくはそれに覆いかぶさるように抱きかかえた。
「あとちょっと我慢してね御剣…」
ぼくのまだ未発達な小さなそれは、唾液のおかげか、にゅるりとほとんどなんの抵抗もなく御剣の中におさまった。
「あ…っ」
御剣のなかはぬるぬるとしていて、とても熱い。
少しぼくが体を動かすだけで、ぼくのそれをきゅっとしめつける。
たまらなく気持ちがいい。
「は…く、みつ、るぎ…力抜いて…」
「あっ、あ…わからな…お願い、抜い、てぇ」
お互いが混乱したかのように、洩れる声は言葉にならなかった。
ぼくは、めまいがするような快楽に誘われるまま、腰を御剣へぶつける。
ぶつける度、ぼくの額から弾けた汗が御剣の申し訳程度に羽織っただけのシャツに染みを作る。
御剣も、もはや何を言っているのかわからないうめき声を上げて、口の端からぽたぽたと唾液がこぼし、床に水溜りを作った。
「あ、あっ…もう、やめ…たすけ、お父さっ」
この期に及んで、父親を呼ぶ御剣にぼくは苛立った。
今、彼と一緒にいるのはぼくなのに。
御剣がファザコンだってことは、矢張だって知ってる事実だったけど、今は腹がたって仕方がなかった。
苛立ちを打ち消すかのように、一層激しく突き上げ、瞬間、目の前が真っ白になった。
「みつ、るぎ…っ、ぼく…ぼく」
数回の痙攣のうちぼくは御剣のなかにすべての熱を吐き出していた。
「…!!!」
「んっ、ああ」
彼は、それを全て体内に受け止めて、びくびくと体を震わせたが、ぼくのように熱を吐き出すことができなかったらしい。
はあはあと、息を整えているぼくの腕を御剣が彷徨うような手つきで掴んだ。
「ぃや…いやだ、もう…助け…なるほ、ど」
自分でどうすることもできない熱に、彼はすすり泣いた。
快感に溺れたような赤い顔で、涙と唾液で塗れた、いつもの彼とはまったく違う表情で、ぼくの名前を呼ぶ。
御剣が、あの御剣が、ぼくを頼っている。
こういう状況に追い込んだのがぼく自身だとか、そんなことはもはや関係なくて、ただ、彼がぼくを頼って泣いているという事実だけがぼくにとっての真実だった。
「…うん、うん。御剣、ぼくが、助けてあげる」
ぼくは、余韻に浸る間もなく、息を切らせながら、可哀想なほど腫れている御剣のそこを、後ろから抱え込むようにして握って数回強く擦ってやった。
「ひ…うああぁ」
御剣は、今度こそ何もかもを吐き出して、ぐったりと崩れ落ちた。
余韻でピクピクと震えている体をぼくは強く抱きしめた。
「ねえ、気持ちよかった?」
気絶したようにぐったりしている御剣の耳元でささやいた。
自分でも驚くほど優しくて甘ったるい声で、ぼくはぼく自身がとんなに彼のことが好きなのか、改めて実感した。
でも、これからはきっと、彼だって同じくらいぼくのことを好きになるはずなのだ。
何しろ、信じられないほど気持ちよくて、本の中でみたような“せっくす”だってちゃんとうまくできた。
ぼくが御剣のことが大好きなように、きっと御剣もぼくのことが大好きになるに違いない。
だって、“せっくす”は愛し合う同士がする行為なのだから。
きれいで可愛くて、大好きなぼくの御剣。
もっと、もっと気持ちを共有すれば
もっと、もっと彼はぼくのことが好きになる。
幼いぼくにはわからなかった。
愛し合うが故の行為であるだけで、必ずしも行為の延長上に“愛”が発生するのではないということを。
気絶したように眠る御剣が目覚めたときから始まるであろう、夢のような日々に胸を高鳴らせて、ぼくは彼の苦しそうな寝顔をうっとりと見つめる。
「大好きだよ、御剣…」
誰に受け止められるでもない、その言葉は、いつの間にか鳴きだした蝉の声にかき消されていったのだった。