その日は、朝からずっとしとしとと雨音が鳴り続いている、薄暗い日だった。
ある殺人事件を担当することになった御剣は、車から降り、傘を差して古い屋敷へ足を踏み入れた。
事件の概要書類を読み返し、ばかばかしい、と一つ溜息をつく。

嘘か本当かはわからないが、ここはあの綾里の分家であるという。
そして、ここで霊媒を行ったが失敗して暴走し、立ち会った人間を刺し殺したという。
霊媒を行ったとされる女は既に逮捕されているが、頑なに何も喋ろうとはしない。
他にこの場所にいた人間も、何かに怯えるように、事件の事を話そうとはしなかった。

屋敷は既に鑑識が入り、捜査の真っ最中だった。
十畳程の和室の畳の真ん中に、血糊がべっとりと染み渡っている。
室内には霊媒の為であろう、蝋燭が大量に並び、禍々しい雰囲気を醸し出していた。
捜査員の中に、見慣れた図体のでかい男がいる。
「糸鋸刑事」
「あっ!御剣検事、お疲れさまッス!」
声をかけられた糸鋸刑事は御剣と目が合うと、気まずそうに頭をポリポリと掻いた。
御剣も、それを見てあまり捜査が進んでいないことを悟った。
小さく溜息を一つつく。
「それで…どうなのだ、何か有力な証拠は出てきたのかね?」
「現場に立ち会っていた人間は何人もいるのに、誰も口を開こうとしないッス…」
「…ところで、報告書にはここは綾里の分家と書いてあったが、『霊媒』といい『綾里』といい…あの男は来ていないのか?」
御剣は、手に持った報告書の該当部分を指で叩く。
糸鋸はハッとして、いきなり慌てふためいた。
「そうッス!さっきまでいたんスけど…」
「僕ならここにいるけど」



その声に振り返ると、廊下の向こうから成歩堂がこちらへ歩いてきた。
その表情は、いつもよりもはるかに堅い。
「やはりな、キサマが出てくると思っていた」
「あ、ヤッパリくん、あの子は大丈夫だったっスか?」
糸鋸は成歩堂にそう尋ねた。
「なんだ、何かあったのか?」
「ああ、真宵ちゃんがここに来た途端倒れちゃって…春美ちゃんに付き添ってもらって、事務所に寝かせて来たんだ。良くない霊がうごめいてるって言ってる」
真宵といえば、綾里の次期当主。
その霊媒の力は、御剣でも真っ向否定することは出来ない。
それが、足を踏み入れて倒れるということは、本当に何かあるのだろうか?
全く根拠の無い推論を振払うように、御剣は首を振って笑った。

成歩堂は、部屋の真ん中にしゃがみ込み、生々しい血の痕を見つめた。
「ここで霊媒が………       」
中途半端な言葉を発し、成歩堂の言葉が途切れた。
「?成歩堂?」
御剣が成歩堂の肩を叩く。
しかし、成歩堂は振り返ること無く、血の痕を凝視したままぶつぶつと何かを呟いている。
「おい、どうした…?」
「…………」
無言のまま、成歩堂はすっくと立ちあがった。
そして、自分の両手の掌を見て、何度か握っては開きを繰り返す。
「や、ヤッパリくん?」
「成歩堂!?」
「……こっちへ来るんだ」
成歩堂が急に御剣の腕を掴み、廊下へと引っ張っていった。
「ど、どこ行くっスか!?」
「糸鋸刑事、君はいいから捜査を進めていろ!」
成歩堂に腕を惹かれながら、御剣は糸鋸にそう命令した。

和室を出て、渡り廊下を歩いていく。
その間、何度御剣が呼んでも、成歩堂は一切振り返りもしなかった。
やがて、現場の和室からは離れた場所にある扉の前に辿り着いた。
古い木の扉に、仰々しい金属の錠が。
明らかに同じ家屋内の部屋の扉よりも、くすんだ色をしている。
「成歩堂、どうしたのだ一体……」
「…………」
成歩堂はその戸をガラッ、と開けて、中に御剣を連れ込んだ。
薄暗く、狭い室内には屏風や壺などが詰め込まれている。
その異様な雰囲気に相まって、雨の音、冷たいすきま風が、御剣の背筋を凍らせた。
「おい、なるほど……っ!!」
唐突に、怒鳴ろうとした唇が柔らかいもので塞がれる。


成歩堂が口付けてきた。
一体何が、どうして、何故、混乱する御剣。
でも、抵抗する素振りは見せなかった。
理解不能なシチュエーションとはいえ、相手は想い人。
口腔内に侵入して来る舌に上顎をなぞられ、背筋がぞくぞくと震え上がる。
求められるまま、成歩堂のキスを受け入れてしまう。
ようやく唇が離れると、成歩堂の自身に満ちたふてぶてしい微笑みが目に入った。
「好きなのか」
「……え……?」
「お前は、目の前にいる男が好きなのかと聞いている」
「…………」
御剣は顔を真っ赤にして、返事を返すことなく俯いた。
「…やはりお前は常に誰かに依存しないと生きられぬようだな」
「…!」
御剣は、その言葉にどきりとした。
胸の内を突かれたこともそうだが、この口調、この言い回し。
自分の中に染み付いている、この眼光。
どこかで………どこかで………。
それにたじろいでしまった隙に、冷たい床へ押し倒される。
「!ほ、本当に成歩堂…なのか…?」
両肩を押さえ込まれ、御剣は身を捩った。
「お前は一生変われぬ。依存できるものを全て失わない限りはな…!」

成歩堂が全身で御剣を押さえ込み、クラバットを乱暴にむしり取った。
ブラウスの襟元から現れた首筋に吸い付き、乱暴に吸い上げ紅い痕を残す。
「っ…や、やめ……!!」
そして成歩堂の手のひらが胸を滑り、指先で乳首を摘みあげ、コリコリと擦る。
「あ……っ!」
その刺激が消えぬまま、舌が伸びて来る。
「あ……ああ………っ」


明らかに、御剣の呼吸は苦痛に歪んだものだけではなくなってきていた。
もちろん、成歩堂もそれに気付いている。
成歩堂は膝を、御剣の股間にグリグリと押し付ける。
それは、もう半分固く勃ちあがって、熱を帯び始めていた。
あっという間にズボンを脱がされ、そこを手で擦り上げられる。
「ひあっ……あ……!」
先走った液体が塗れ、ヌチャヌチャと淫猥な音を立てた。
御剣は快感に震え、真っ赤になった顔を隠すように顔を横に向けた。
しかし、明らかに手慣れた手付きで愛撫を続けられ、御剣の自制心は崩壊寸前だった。
やがて、ミツルギの先走りで濡れた成歩堂の指が、ゆっくりと後蕾へ侵入を開始する。
もう、御剣に抵抗する気力は残っていなかった。襲いくる快感の波に溺れ、なすがままの人形と化していた。
「あ……やぁ……ああっ……!」
成歩堂が仰向けのミツルギの足を自分の肩にかけ、ズボンのベルトを外し、ファスナーを下げる。
そして張りつめた自分のモノをミツルギの後ろにあてがった。
御剣は全く抵抗しない。
潤んだ目で、成歩堂の目をぼんやりと見据えるのみ。
「相変わらず淫乱だな、お前は」
「………!!!ま、まさか………」
この台詞に、御剣は全てのロジックがつながるのを感じた。

霊媒、良くない霊、途切れた意識、別人のような言動、……自分が身体を開いたことのある人間。
そして、それを裏付ける決定的な一言が、成歩堂の口から発せられた。




「愛する男に犯される気分はどうだ?………怜侍」





……先生、あなたなのですか…………?

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